8月17日(土)に「宇宙世紀のガンダムを語る-ZZからUCへ-」と題して、『機動戦士ガンダムUC』のストーリーを手がけた福井晴敏さん、『ガンダムUC』プロデューサーの小形尚弘さん、『機動戦士ガンダムZZ』でプロデューサーを務めた内田健二さん(現サンライズ代表取締役社長)を招いてのトークショー、そして『ガンダムZZ』からセレクションした8話と『ガンダムUC』episode 3の上映が行なわれた。
トークショーではアニメ評論家の藤津亮太さんを司会進行に、まずは福井さんと小形さんが登壇。『ガンダムUC』では『ガンダムZZ』からの設定がいくつか盛り込まれていて、その理由を福井さんに聞くところからトークが始まった。
福井「俺が特に『ガンダムZZ』を気に入っているからというわけではなくて(笑)。たとえば歴史もので、あの武将が嫌いだから、そこをまったく触れずに描くということがないように、『ガンダムUC』も宇宙世紀で『ガンダムZZ』の物語の延長線上にある以上、関連するキャラクターやメカ、設定が登場してくるのは自然なことなんです。だからもし『ガンダムZZ』を毛嫌いする人がいたら、全部食べてこそ“宇宙世紀”というものがわかるんだよと、ぜひ伝えていただきたいですね」
『Zガンダム』と連作の形で時間帯もそのままに放送がスタートした『ガンダムZZ』は、前作のシリアスな雰囲気とは打って変わり、“明るいガンダム”を標榜し主題歌では「アニメじゃない」とさえ言い切っていた。従来のファンの中にはそこに拒絶反応を示す人たちもいたようだ。
福井「ほかの宇宙世紀ガンダムと『ガンダムZZ』で何がいちばん違うかというと、両親との対決の有無なんです。アムロやカミーユ、バナージにしても親との関係をどう精算して社会に出ていくかというプロセスが必ず描かれる。『ガンダムZZ』というのはそこが完全にオミットされている。主人公の葛藤が全排除されているんだよね。そこがたぶんほかの作品と比べて、視聴者には圧倒的に食い足りないところだと思うんだけど。逆にそれくらい主人公の内面に踏み込まず後退させる感じにしないと、オモチャを売るために主役ガンダムの合体を見せつつ、アクシズ(ネオ・ジオン)の後始末をつけるのは一年の放送では消化しきれなかったかも知れないなと」
藤津「主人公のジュドーはカミーユとは違って、陰から大人たちに守られて戦っていた気がしますね。ブライトは《ネェル・アーガマ》を降りて、ジュドーたちが戦えるように防波堤の役目を果たしていたし、最後はわざわざジュドーの怒りを受け止めるために殴られてもやった。ジュドーは守られているおかげで、カミーユみたいにはならないんだよというニュアンスをすごく感じたんです」
ちなみに福井さんは『ガンダムZZ』の本放送時は高校3年生だったこともあり、リアルタイムでは見ていなかったそうで、『ガンダムUC』の連載を始めるにあたり、まとめて見ることになったとか。小形さんはちょうど中学受験と重なり、『Zガンダム』『ガンダムZZ』は本放送では見せてもらえず、再放送で見ることになる。福井さんは初めて『ガンダムZZ』を見て、『ガンダムZZ』が嫌いな人が言うほど悪くなかったという感想をもったそうだ。
福井「よかったのはプルの周りのエピソード。最初、プルがお風呂から飛び出して『プルプルプルプル〜』と駆け出すのを見たときは、絶句してくじけそうになった瞬間はあったんですけど(笑)、プルツーが出てきて明らかに作品が次のステージへ移った。“強化人間”という、人間の命の根幹の部分を人間がいじってしまう狂気を、『Zガンダム』ではフォウやロザミアのエピソードで描こうとしつつも消化しきれてなかった。それを『ガンダムZZ』で再チャレンジしようという気概が見られた。そういう意味で『ガンダムZZ』は単体で判断するのではなくて、『Zガンダム』という常軌を逸したアニメの後始末をする作品として見ると、すべてがわかる。こうするしかなかったろうなとさえ思える」
小形「富野さんはいつも何かにカウンターを当てながら作品をつくるのが得意なんです。『ガンダムZZ』の前半は『Zガンダム』に自分でカウンターを当てていっているから、ああいうつくりをしているのかなと」
福井「富野さんの中では『ガンダムZZ』前半の仮想的は『Zガンダム』なんだよね」
小形「ちなみに『ガンダムUC』のマリーダは、プル、プルツーと同じ強化人間で“プル・シリーズ”じゃないですか。それは『ガンダムZZ』を見ているときに、『ガンダムUC』に取り入れようと思ったんですか?」
福井「大人になって見た中でいちばん最近だったのが『ガンダムZZ』で、そのぶん印象に残っていたからかもしれない(笑)。でもそれだけじゃなくて、『Zガンダム』『ガンダムZZ』で富野さんから提示されたものに対して、見てきた俺たちが自分たちなりの解答を返していくのが今回の『ガンダムUC』での根幹でもあるので。そういう意味では“強化人間”というテーマは、やっぱり一度は触れておきたい気持ちが自分の中に強くあった。それがマリーダとジンネマン、そしてバナージのエピソードに定着したという感じですね。
トークも中盤を迎えたころ、もうひとりのゲストである内田社長がステージへ。内田社長は、『Zガンダム』『ガンダムZZ』『逆襲のシャア』などのプロデューサーを当時務めていた。『Zガンダム』がプロデューサーとして初めての作品となり、続いて『ガンダムZZ』でも続投することになった内田社長は当時を振り返り、次のように語った。
内田「当時は30歳くらいで初めてプロデューサーになって、モチベーションが高かったこともあって、苦労を凌駕してしまうほど充実していたという記憶がありますね。ただ、当時はまだ昨今のガンダムのように作品づくりの道筋ができていたわけではないので、どれが正解かわからないまま模索していたころでもありました。同時にハードルを越えるのが難しいなと思いながらやっていたのが2つあります。
ひとつはみずからつくったファーストガンダムを超えていきたいという富野監督と、『宇宙戦艦ヤマト』から始まりガンダムで萌芽した、子供向けではないアニメーションを見たいというユーザーたち、あとガンプラを売りたいスポンサー、この3者の要望をどうすり合わせて作品をつくっていくか。
もうひとつはロボットものが徐々に隆盛を迎える時代にあって、ガンダムを超えていくような力強い作品として『超時空要塞マクロス』と『トランスフォーマー』が生まれていて、この2つにどうやって『Zガンダム』『ガンダムZZ』で対抗していくか。その2つが自分に直面する課題になっていました」
プロデューサーにとって、クリエイターとユーザーの要望に応えるほかにも、ビジネス上の課題も大きかった。『マクロス』『トランスフォーマー』を超えるために、Zガンダムでは変形、ZZガンダムでは変形・合体というギミックが加わっていったのもうなずける。ほかにも『Zガンダム』制作途中で急きょ続編が決まった際の話や、メカデザイナーに内田さんみずから声をかえてMSのデザインをオファーしていったことなど、当時の混沌としながらも熱気あふれる制作現場のようすが語られていった。最後に『Zガンダム』『ガンダムZZ』が果たした役割というのは何だったのか?という問いが内田社長に投げかけられた。
内田「『Zガンダム』『ガンダムZZ』をつくっておくことがもしなかったら、“ガンダム”というブランドが消滅していた可能性があります。80年代にライバルのロボットものが群雄割拠する中で、2年間放送できたことが、現在につながっているのかなと、今にしてそう思えます。
それと富野監督はこれまでの作品の中で、ただのヒューマン・ドラマでは表現できない本当の人間の部分を描いています。人間の本性を描くためにニュータイプや強化人間といった引き出しをつくり、なおかつロボットものであるという二重構造にしている。ロボット同士の戦いの中で、あらゆる人間の根源的な部分を富野監督は描こうとしていた。あの2年間にいろいろな形でトライアンドエラーを繰り返したことが、今のガンダムの広がりにつながる素材を生んだのかなと思いますね」
「今日改めて社長の話を聞いて、『ガンダムUC』をつくらせていただけるのも、諸先輩方がいろいろご苦労されてつくってきた歴史を土台にしてなんとか成り立っているのだと再実感しました。『ガンダムUC』は来年春に最終話を迎えるために今、鋭意制作中です。皆さんに広げていただいたガンダムの世界により深みをもたせることができるような、episode 7にしたいと思っております。来年はぜひよろしくお願いします」(小形)
「ファーストガンダムと『Zガンダム』『ガンダムZZ』がシリーズとして3本つくられて、しかも当時は子供向けに放送していたなんて、これは諸外国から見たら本当にむちゃくちゃなことなんです。でもそれができたということ、商品を売るための番組だからといって、富野さんや内田社長たちが力を抜かずに作品として取り組んでいったことが今、財産となって残っている。我々も頑張らなければと改めて思いました」(福井)
「今日、こういう話を聞いていただいたうえで、27年の時を超えて2つの作品にいっそうのつながりを感じながら見ていただければ幸いだなと思います。サンライズの社長としては、皆さんのオーダーに応える作品もつくっていくのはもちろんですが、それを超えてチャレンジしていくような作品、ガンダム以外にもたくさんいい作品、ヒット作をつくっていきます。変わらずのご支援をよろしくお願いします。今日は本当にありがとうございました」(内田)
左のポスターが『ガンダムZZ』放送当時の宣伝ポスター。現在は社長の内田さんも当時は新米プロデューサーだった。『Zガンダム』の続編をオファーされたとき、自分ではなかなかスポンサーや会社に強く出られないので、富野監督に断ってもらおうと思ったとのこと。